アスベスト健康被害に苦しむ方たちに対して、国や勤務先からの賠償金支払い以外にも補償があります。
そのアスベスト被害者に対する公的救済制度は、以下の3つになります。
① 労災保険
② 石綿健康被害救済制度
③ 建設アスベスト被害救済制度
1.労災保険制度の利用
業務中にアスベストを取扱い、健康被害を受けた場合には、業務災害として労災認定を受けることで、労災保険の給付を受けることができます。 労災保険の給付対象者は、労働者及び労災保険の特別加入者となります。
つまり、現在雇用されている、または過去に雇用されていた方で、業務上アスベストにさらされたことにより疾病になったと労働基準監督署長が認定した場合には、労災保険の対象となります。
労災保険では医療費や休業補償等を受けることができます。実際に生じた損害を補償するのが労災保険といえます。
注意すべき点は、労災保険と石綿健康被害救済制度のどちらか片方しか利用できない点です。なお、国からの賠償金を受けとっていても、労災から保険金を併給することはできます。
1-1.労災保険で支給可能な給付金の種類
労災保険で受けられる保険給付は次のものがあります。
① 療養給付
療養給付は、治療費や薬剤費等の事をいいます。原則として、労災給付の療養給付は「現物支給」とされており、窓口での費用負担をする必要はありません。
療養給付がなされるのは、治癒、もしくは症状固定するまでとなります。症状固定となった場合は、後遺障害が生じている可能性があるため、障害補償給付を請求できる可能性があります。
② 休業補償給付
休業補償給付は、アスベストによる健康被害によって休業を余儀なくされ、勤務先から給与が支払われない場合に、請求可能な給付金になります。休業4日目から休業1日につき、給付基礎日額の80%(うち20%部分は特別支給金)を受け取ることができます。
③ 傷病補償年金
治療開始から1年6ヶ月を経過しても治癒しない場合は、傷病等級に応じて年金が支給されます。
④ 障害補償給付
後遺障害が残った場合に請求できる給付金です。障害等級に応じて年金や一時金を請求できます。
⑤ 介護補償給付
重度の後遺障害(後遺障害等級1級または2級)が生じ、介護が必要になった場合には、介護費用の実費請求が可能です。
⑥ 遺族補償給付、葬祭料
アスベストの被害により亡くなった労働者の方のご遺族に対し、遺族補償年金または一時金および葬祭料が支給されます。
労災保険の給付金額は、給付金の種類によって異なります。
注意点は、労災保険への申請にあたって、療養補償給付(治療費への補償)及び休業補償給付は2年、障害補償給付及び遺族補償給付(ご遺族への補償)は5年という労災の申請期限があります。そのため、労災保険の補償を受けるには申請期限内である必要があります。
また、労災保険は、一度請求したら様々な手続きが一括で行われるのではなく、給付ごとに請求書類を提出しなければなりません。
1-2.アスベスト被害者が労災保険の給付を受ける基準
アスベストによる健康被害が労災として認定されるには、以下の条件があげられています。
- 石綿ばく露作業に従事している(または従事したことがある)
- 特定の疾病が発生した
- 疾病の症状が労災認定の基準を満たしている
1-3.石綿ばく露作業の種類
労災保険では以下の作業を、給付の対象となる石綿ばく露作業としています。
- 石綿鉱山またはその付属施設におい行う石綿を含有する鉱石又は岩石の採掘、搬出またはその粉砕その他石綿の精製に関連する作業
- 倉庫内などにおける石綿原料などの袋詰めまたは運搬作業
- 石綿製品の製造工程における作業
- 石綿の吹きつけ作業
- 耐熱性の石綿製品を用いて行う断熱もしくは保温のための被膜またはその補修作業
- 石綿製品の切断などの加工作業
- 石綿製品が被膜材または建材として用いられている建物、その付属施設などの補修または解体作業
- 石綿製品が用いられている船舶または車両の補修または解体作業
- 石綿を不純物として含有する鉱物などの取り扱い作業
これらのほか、上記作業と同程度以上に石綿粉じんのばく露を受ける作業や上記 作業の周辺などにおいて、間接的なばく露を受ける作業も該当します。
石綿ばく露作業の詳細は、厚労省ホームページ「石綿にさらされる作業に従事していたのでは?」と心配されている方へ 」をご参照ください。
1-4.石綿による疾病の認定要件
給付金の請求対象となる疾病は以下の5つです。
- 中皮腫
- 肺がん
- 石綿肺
- びまん性胸膜肥厚
- 良性石綿胸水
それぞれの疾患に対して詳しい条件が規定されていますので、ご自身が対象になるかどうかわからないという方は、弁護士法人シーライトにご相談ください。
2.石綿健康被害救済制度の利用
労災保険では、アスベストの健康被害に関する治療費等を給付します。しかし、労災保険は、業務が原因で健康被害を受けた場合に、労働者又は特別加入者が請求できる保険ですので、すべてのアスベスト被害者が補償対象となる訳ではありません。
石綿被害救済制度は、そのような労災保険等の対象とならないアスベスト健康被害者やその遺族を対象とする制度です。
石綿健康被害救済給付の受給条件や受給可能な金額は以下の通りです。
2-1.石綿健康被害救済給付の対象となる疾病について
アスベストを吸入することにより、以下を発症したこと
- 中皮腫
- 肺がん
- 著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺
- 著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚
また、上記に加え、下記のいずれかに該当すること
■ 現在療養をしている方
■ 上記「指定疾病」が原因により法令の施行日より前に亡くなられた方のご遺族や法令施行日後に認定を受けずに亡くなられた方のご遺族
2-2.石綿健康被害救済給付で受け取り可能な金額
救済制度により受けとることができる給付内容は以下の通りです。
① 医療費
石綿によって指定の疾病に関する医療費の自己負担分が免除されます。
石綿によって指定疾病にかかったと認められると「石綿健康被害医療手帳」が発行されますので、その手帳を医療機関に提示することで窓口負担がなくなります。
② 療養手当
入院や通院に伴う諸経費を補償するもので、月額で103,870円となっています。期間は、指定疾病について療養を開始した月の翌月から療養の間となります。
2ヶ月に1度の支給となり、2ヶ月がまとめて支給されます。
③ 葬祭料
アスベスト被害者がお亡くなりになった場合、葬祭を行った方に対して、一律199,000円が支払われます。
④ 救済給付調整金
被認定者・被認定者のご遺族に医療費と療養手当の合計が特別遺族弔問金の額(280万円)に満たない場合に、その差額が給付されます。
⑤ 特別遺族弔慰金・特別葬祭料
指定疾病により亡くなった方の遺族に対する弔慰等を目的として支給される給付金となります。金額は、特別遺族弔慰金が2,800,000円、特別葬祭料が199,000円です。
3.建設アスベスト給付金制度の利用
令和3年6月9日に、国会で「特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律」が成立し、同月16日に公布されました。この法律は、「建設現場でのアスベストばく露被害者」について、一定の条件の下で、国が損害賠償金を支払うことを命じた、最判令和3年5月17日民集75巻4号(判タ1487号106頁)の判例が元となっています。
3-1.給付対象者について
建設アスベスト給付対象者は以下のような方になります。
- 1972年(昭和47年)10月~1975年(昭和50年)9月までの間に「石綿の吹きつけ作業に係る建設業務」に従事していた方
- 1975年(昭和50年)10月~2004年(平成16年)9月までの間に、一定の屋内作業場でおこなわれた作業に係る建設業務に従事していた方
上記のそれぞれの期間ごとに、記載している石綿にさらされる建設業務に従事することにより、石綿関連疾病(※1) にかかった労働者や、一人親方、一定規模以下の中小事業主、一定規模以下の法人代表者であること。
(※1)石綿関連疾病は、以下となります。
- 中皮腫
- 肺がん
- 石綿肺(じん肺管理区分が管理2~4)
- 著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚
- 良性石綿胸水
被害者ご本人がお亡くなりになっている場合には、ご遺族(配偶者、子、父母、孫、祖父母または兄弟姉妹)からの請求が可能となります。
3-2.給付内容について
病態 | 基準慰謝料額 |
---|---|
石綿肺(管理区分2・じん肺法所定の合併症なし) | 550万円 |
石綿肺(管理区分2・じん肺法所定の合併症あり) | 700万円 |
石綿肺(管理区分3・じん肺法所定の合併症なし) | 800万円 |
石綿肺(管理区分3・じん肺法所定の合併症あり) | 950万円 |
石綿肺(管理区分4)、肺がん、中皮腫、 著しい呼吸器障害を伴うびまん性胸膜肥厚、良性石綿胸水 | 1150万円 |
石綿関連疾患(じん肺法所定の合併症なしの場合)による死亡 | 1200万円 |
石綿関連疾患(じん肺法所定の合併症ありの場合)による死亡 | 1300万円 |
弁護士にご相談ください
アスベスト健康被害者に対する3つの救済制度を紹介しました。
労災保険の補償を受けられる方だけでなく、労災保険の補償外とされてしまった方への救済制度の利用、労災保険の補償外だが建設アスベスト給付金の利用が可能など、アスベストによる健康被害への補償は幅広くあります。
そのような制度や補償をしっかりと受けていくために、法律の専門家である弁護士にご相談ください。弁護士法人シーライトでは弁護士が丁寧にサポートさせていただきます。
この記事の監修弁護士
弁護士法人シーライト
副代表弁護士 小林 玲生起
神奈川県弁護士会所属。藤沢生まれ、藤沢育ち。アスベスト給付金申請の代理業務については弁護士向け教材の講師を務めるなど、詳しい知識を持つ。