石綿肺やじん肺は、間質性肺炎やそれが進行した肺線維症の一種にあたります。そうした性質のため、実際にはアスベスト(石綿)が原因であっても、その関連があまり意識されず、あるいは意識されていたとしても、診断名としては単に「(びまん性)間質性肺炎」や「肺線維症(IPF)」とされてしまうケースが少なくありません。その結果、本来は「石綿肺」と診断されるべきものが、「特発性肺線維症(IPF)」や「原因不明の間質性肺炎」として扱われている例が、相当数存在していることが指摘されています(毛利一平「石綿ばく露と石綿肺・間質性肺炎:疫学的視点からの問題提起」社会労働衛生17巻2号64~67頁)。
ただし、こうした診断名になっているからといっても、アスベスト給付金の申請ができなくなる、あるいは必ず不支給になる、というわけではありません。実際には、申請後の調査で精査された結果、「石綿肺」と認定され、給付が認められるケースも多く見られます。
過去の事例でも、「間質性肺炎」と診断されていたことで、最初は「原因不明のもので、アスベストばく露とは関係がない」と判断されて労災が認められなかったものの、後にその判断が覆ったケースがあります。たとえば、労働保険審査会取消裁決令和3年4月16日や、福岡高裁判決令和4年2月22日(令和3年(行コ)30号。原審:長崎地裁判決令和3年6月21日・判時2527号)などでは、労働基準監督署の不支給処分が取り消されています。
弊所の事例でも、間質性肺炎と診断されていたが、意見書などを添付してアスベスト給付金申請したところ、支給認定された例が複数ございます。
こうしたことは、他の疾病にも共通して言えることですが、相談の段階でまだはっきりと対象となる病気を診断されていなくても、認定基準に詳しい専門家が職種、アスベストばく露の時期・期間、症状、治療歴などを丁寧にお聞きすることで、見落とされがちな対象疾病を見つけ出すことが可能です。
この記事の監修弁護士

弁護士法人シーライト
副代表弁護士 小林 玲生起
神奈川県弁護士会所属。藤沢生まれ、藤沢育ち。アスベスト給付金申請の代理業務については弁護士向け教材の講師を務めるなど、詳しい知識を持つ。