職業/業務内容 | 建設業/現場監督、建物の解体工事・新築工事の監理 |
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症状 | 間質性肺炎 |
現在の状況 | 治療中 |
年齢 | 60代 |
勤務形態 | その他 |
ばく露時期 | 昭和50年(1975年)代~平成25年(2013年) |
ばく露年数 | 約40年 |
ばく露した状況 | アスベスト含有建材の解体・建築工事による粉塵飛散 |
申請をお勧めした給付金制度 | ①労災保険 ③建設アスベスト被害救済制度 |
ご相談者 | ご本人 |
①ご相談内容
被災者は、40年間ほど建築業の現場で解体工・現場監督として労働していました。3年前から頻繁に咳が出て通院したところ、間質性肺炎の診断を受けました。偶然ラジオでアスベストの補償金制度を知り、建築業の現場でアスベストにばく露したのではないかと考え、インターネットで当事務所のことをお知りになり、連絡をされたとのことでした。
②弁護士からのアドバイス等
1.アスベスト被害者の救済制度のご説明
まず、アスベスト被害者救済制度について、大きく3つの制度があることを説明させていただきました。アスベスト被害者の方は、①労災保険、②石綿健康被害救済制度、③建設アスベスト被害救済制度が利用できる可能性があります。 詳しい制度につきましては、下記をご覧ください。
2.今回利用する制度
お話しを伺いましたところ、労災保険・建設アスベスト被害救済給付金制度に申請可能だったため、労災保険への申請をお勧めしました。理由としては、労災の認定が下りた場合、建設アスベスト被害救済制度の申請をする際に労基署が調査した資料を利用でき、スムーズに申請を行うことができるからです。
3.間質性肺炎はアスベスト給付金制度の対象であるか
アスベスト給付金における対象疾患は、①中皮腫、➁肺がん、➂石綿肺、④びまん性胸膜肥厚、⑤良性石綿胸水(石綿健康被害救済制度は除く)です。
間質性肺炎とは、肺胞内部が炎症を起こす通常の肺炎と異なり、肺胞同士を隔てて固定している壁のような組織(間質)が炎症を起こし、炎症が繰り返されると間質の肥厚化ないし肺繊維化(不可逆化。honeycomb lung:蜂窩肺、蜂巣肺)を惹き起こす疾病の総称です。
間質性肺炎は、原因不明のもの(特発)から、膠原病由来のもの、そしてアスベストばく露も間質性肺炎を惹き起こす原因になります。しかし、間質性肺炎のうち「何が原因なのか」を特定することは難しいですし、治療のうえでは必ずしも原因の特定が必要でないこともあるため、総称としての「間質性肺炎」とだけ診断され、アスベスト給付金における対象疾患としての「石綿肺」「びまん性胸膜肥厚」「良性石綿胸水」かどうかは、曖昧なまま治療が進んでしまっていることも多いのです。
実際に、アスベスト被害に取り組む医師も「・・・相当程度の石綿肺というのが特発性肺線維症(※)として誤分類されているんじゃないか」と分析しています(毛利一平「石綿ばく露と石綿肺・間質性肺炎:疫学的視点からの問題提起」社会労働衛生17巻2号66~67頁 )。
※間質性肺炎が進行すると、肺線維症(肺が柔軟性を失って硬くなり、呼吸機能障害を生ずる)となります。肺線維症のうち、原因不明のものを「特発性肺線維症(IPF)」といいます。
また、国のアスベストの研究機関も、石綿肺は「胸部画像上、慢性間質性肺炎との鑑別には注意が必要です」と、石綿肺などのアスベスト関連疾患が「間質性肺炎」との診断の下に埋もれてしまわないよう注意を喚起しています。
以上のように、本件では、アスベストばく露歴からして、アスベストに由来する間質性肺炎(石綿肺など)であることが見逃されている、または曖昧にされている可能性があると考え、専門機関に審査してもらうべく、労災保険の申請をすることをおすすめしました。
③所感・まとめ
本件は、相談者ご本人が、アスベスト給付金制度の対象者であるケースです。
審査機関側(労基署・環境再生保全機構・厚労省)なども、一定程度の相談には乗ってくれますが、申請を肩代わりしてくれるわけではないので、本件のご相談者のように現在も就業中の方、または療養中の方や高齢の方が申請手続きを行うのは、体力面、時間的にもとても大変です。ご相談者の負担を減らすためにも、早速ご依頼を受任することにいたしました。
本件でその可能性があるように、本来アスベスト関連疾患(石綿肺)と診断されるべきものが、特発性(原因不明の)間質性肺炎や肺気腫、慢性気管支炎などと診断されることも多くあります。特に、職業上、長期間のアスベストばく露がある方は「診断名がアスベスト給付金対象疾病ではない」ということだけで諦めずに、アスベスト専門医の審査を行ってもらうべく、労災保険、石綿健康被害救済制度、建設アスベスト給付金制度のどれかには申請した方がよいでしょう。