職業/業務内容 | 機械工 |
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症状 | 石綿肺 |
現在の状況 | 治療中 |
年齢 | 80代 |
勤務形態 | 正社員 |
ばく露時期 | 昭和60年(1980年)代~平成10年(2000年)代 |
ばく露年数 | 約10年 |
ばく露した状況 | 自動車部品及び自動車部品製造の機械の製造・修理・改造の業務に従事 していたところ、機械の部品などにアスベストが使用されていたため、作業の際にアスベストの粉塵が舞っており、ばく露した。 |
申請をお勧めした給付金制度 | ③建設アスベスト給付金制度 |
ご相談者 | ご本人 |
①ご相談内容
被災者は、昭和60年代から平成12年頃まで10年以上、工場において、自動車部品及び自動車部品を製造する機械を製造・修理・改造する業務に従事していた。
部品または機械のシャフトの回転部分、パッキン、ガスケット、ブレーキパッドなどにアスベストが使用されており、これらを加工・修理・改造する作業の際にアスベストの粉じんが舞い上がり、アスベストにばく露した。
2、3年ほど前から息苦しさを感じるようになり、呼吸器科を受診したところ、「石綿肺(アスベスト肺)だ」(※1)と医師から診断され、じん肺管理区分決定申請(※2)をするよう進められた。そこで、労働基準監督署に相談して、診断書などを集め、じん肺管理区分決定申請をしたところ「管理2」が認定された。
(※1)比較的長期間・大量に吸い込むことにより、肺が弾力性を失って固くなり(繊維化してしまい)、呼吸機能が低下します。
(※2)じん肺管理区分決定とは、「粉じん作業」を行っている(または過去行っていた)労働者に、じん肺の程度を判定するじん肺法に基づく制度です。管理1~管理4まであり、数字が大きいほど重い症状です。詳しくは、岐阜県労働局のホームページがわかりやすいので、ご参照ください。
じん肺管理区分の「管理2」が決定された後、ある法律事務所に補償の点を相談したところ、
- 管理区分2だが、合併症がないので、労災保険の認定基準に当てはまらない。
- 石綿製品工場の労働者が国に対し国家賠償訴訟を提起すれば、損害賠償金が支払われる制度がある。しかし、昭和33年5月26日~昭和46年4月28日の間に従事した者が対象であり、被災者は、当てはまらない。
- その他利用できる制度はない。
とのことで、依頼は受けてもらえなかった。
以上のような事実関係を元に、「上記のようなアドバイスは本当か?」とセカンドオピニオン的にご相談にいらっしゃいました。
②弁護士からのアドバイス等
1.アスベスト被害者の救済制度のご説明
アスベスト被害者の方は、①労災保険、②建設アスベスト被害救済制度、③石綿健康被害救済制度が利用できる可能性があります。
①に関しては労働者または労災保険の特別加入者の方が対象です。②に関しては、労働者・一人親方・一定の規模以下の事業主または法人代表者の方が対象です。③に関しては、労働者かどうかなどを問わず、広くアスベストばく露者を対象としています。
①②③ともに、石綿肺はアスベスト関連疾患の対象疾病として定められています。
しかし、①については、ある法律事務所がアドバイスしたとおり、管理4の石綿肺or管理2・3の石綿肺に合併症(肺結核、結核性胸膜炎、続発性気管支炎、続発性気管支炎拡張症、続発性気胸)が併発した場合に、労災保険が下ります。被災者の方は、合併症はありませんでした。
また、③については「著しい呼吸器機能障害がある」という要件が課されており、ご持参の診断書を確認したところ、被災者の方に著しい呼吸器機能障害(パーセント肺活量%VCが60%未満など)はないようでした。
アスベスト被害者の救済制度 | 各制度における石綿肺の認定基準 |
労災保険 | 以下の①か②を充たすこと ①管理4の石綿肺 ②管理2または3の石綿肺に、以下のいずれかの疾病を合併した場合 ・肺結核 ・結核性胸膜炎 ・続発性気管支炎 ・続発性気管支炎拡張症 ・続発性気胸 |
石綿健康被害救済制度 | 以下の①~④を全て充たすこと ①大量の石綿ばく露があること ②胸部X線画像で、じん肺法に定める第1型以上と同様の肺繊維化所見があること ③著しい呼吸機能障害があること ④他疾患との区別があること |
建設アスベスト被害救済制度 | じん肺法管理2~4に該当する又は相当する石綿肺 (合併症のない者も含む |
石綿製品工場型(泉南型)被害救済の国家賠償訴訟 | 同上 |
2.建設アスベスト被害救済制度を利用できることをアドバイス
被災者の方が利用できる制度がないように思えましたが、建設アスベスト被害救済制度では、「石綿肺管理2または管理3で、合併症のない者」も給付の対象なのです(建設アスベスト被害救済法4条1項3号イ(2)ロ(2))。
また、「建設」アスベスト被害救済制度という名のイメージとは異なり、この制度は「土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊若しくは解体の作業」に従事していた者を対象とするので(建設アスベスト被害救済法2条1項柱書)、本件のような機械工の方も対象となり得るのです。
実際に、特定石綿被害建設業務労働者等認定審査会の審査方針において主に対象となる職種が挙げられていますが、「機械工」も対象となっています。
以上のようなご説明を差し上げたうえで、最大で550万円の給付がなされる可能性があるので、診断書などを収集して建設アスベスト給付金の申請をすべきである旨をアドバイスしました。
③所感・まとめ
相談者は病気の家族を抱えているため、診断書・医療記録の取付け、アスベストばく露状況の書面作成などは、とても自分では行えないとのことで、建設アスベスト給付金の申請を当事務所にご依頼いただくこととなりました。
本件のように、制度の対象でないと思われたアスベスト被害の案件でも、つぶさに法律・制度・対象疾病を把握しており精査すれば、実は対象であったということもあります。
「対象疾病の確定診断がついていない」「この制度では対象でないだろう」と早合点せず、アスベスト被害に遭われた方、そのご家族は、早めに法律事務所に相談することをお勧めいたします。