「アスベストの給付金を申請して、いつごろから給付金を受け取れるのか?」そんな疑問を持たれた方もいらっしゃると思います。アスベスト健康被害に対する国が用意している給付金の制度は、4つあります。
1.労災保険、2.特別遺族給付金、3.石綿健康被害救済制度、4.建設アスベスト被害給付金制度です。
今回のコラムでは、4つの給付金制度の受給にかかる期間や給付の流れや時効などについて解説します。
アスベスト給付金はいつ受け取れるのか?
アスベストの給付金は、請求してから受給できるまでの明確な期間というものの定めがありません。また、アスベスト給付金を請求したからといって、必ずしも給付金が受け取れるというわけでもありません。
アスベスト被害者であり、給付対象であるという認定がなされなければ給付金を受け取ることはできません。この給付金の受給対象であるかどうかを決定するための調査や審査の混み具合により、給付金をいつ受給できるのかが変わってきます。
給付金の支給認定または不認定の決定後、請求者の元に認定結果通知書もしくは不認定決定通知書が送付されます。認定された場合、認定結果日から1か月程度で給付金が支払われることが一般的です。ただし、あくまで目安のため1か月以上かかるケースもあります。
アスベストの給付金の認定・不認定決定までには、非常に時間がかかることを想定しておく必要があります。
それでは、それぞれの給付金制度について詳しく見ていきましょう。
労災保険
労災保険によるアスベスト給付金の対象となるのは、労働者または労災保険の特別加入時に業務でアスベストにさらされ、アスベスト関連疾患になってしまった場合です。
労災によるアスベスト給付金は、申請してから3ヵ月から半年ほどかかることが多いです。これは、アスベストではない業務中、通勤中の怪我や疾病による労災保険給付のケースに比べて遅い現状にあります。
ちなみにアスベストではない怪我や疾病の場合、労災申請から支給決定までは、ケースによって異なりますが、おおよそ1か月~数か月が目安となります。
なぜ、アスベストの場合は、他の労災による怪我や疾病に比べ支給決定までの時間が遅いのでしょうか。
アスベストではない業務中、通勤中の怪我や疾病の場合、事故が発生してから申請までの期間は、大きくあいていないので、調査が難しく時間がかかってしまうというケースは少ないです。しかし、アスベストによる健康被害は、遅発性疾病のため、被害者が自覚できる症状が発症するまでに相当な時間がかかります。アスベストにばく露してから短くても10年、通常は30年から50年と非常に長期の潜伏期間を経て発症します。
そのため、何十年も前に従事していた業務の調査は簡単ではなく、疾患と業務の関連性を調査することに困難が伴います。さらには、当時勤めていた会社が倒産しているといったこともあり、調査に時間がかかるため、給付金の支給までの時間がかかることが多いです。
給付内容
労災保険による主な給付内容は、一般的な労災保険の内容と変わりません。
アスベストにばく露したご本人に対する労災保険の給付内容は、療養補償給付、休業補償給付が主な内容となります。
- 療養補償給付:治療費、病院代に必要な費用が支給されます。
- 休業補償給付:アスベスト被害が原因で働けない場合の収入を補償します。
(※平均賃金・休業期間等によって受給額が異なりますが、300万~400万円/年が支払われることが多いです。)
受け取ることができる給付金については、被害者の方の状況によって異なります。
また、被害者の遺族に対する労災保険の給付内容は、遺族補償給付、葬祭料、未支給の労災保険給付が主な内容となります。
- 遺族補償給付:遺族補償年金と遺族補償一時金の2種類があります。これは、どちらも遺族の生活を保障するために支給されるものです。
- 葬祭料:315,000円に給付基礎日額の30日分を加えた額もしくは、給付基礎日額の60日分が支給されます。概ね60万円前後になることが多いです。
- 未支給の労災保険給付:被害者が休業補償給付を請求しないまま死亡してしまった場合など、未支給の労災保険給付があれば、遺族が請求することができます。
※未支給の労災保険給付を請求できる人は、被害者の収入によって生計を維持していた人に限ります。
受給までの流れ
労災の申請をしてから、実際に給付金が支払われるまでの流れは、以下となります。
- 労災給付金の申請のために事前準備として必要書類を揃えます。
案件ごとに異なりますが、アスベストばく露の証拠や医師の診断書があると認定可能性を高めることになるでしょう。 - 労働基準監督署に給付内容に応じた申請書と必要書類を提出します。
- 労働基準監督署による書面審査および調査が行われます。
- 労働基準監督署より労災認定の可否が通知されます。
労災認定が下りれば給付金の支給が開始されます。不認定の場合には、異議申し立てが可能です。
消滅時効
労災保険の給付には、時効があります。これはアスベストが原因で労災を請求する場合であっても例外ではありません。
労災請求できる権利を得て(以下、起算点といいます)から時効期間内に請求しないと、権利が消滅します。そのため、給付金を請求する場合、それぞれの時効に注意しなければいけません。
- 療養補償給付:療養の費用を支出した日の翌日が起算点で、時効期間は2年間です。
- 休業補償給付:働くことができず賃金が受けられない日ごとの翌日が起算点で、時効期間は2年間です。
- 障害補償給付:治ゆ日(症状固定日)の翌日が起算点で、時効期間は5年間です。
- 遺族補償給付:被災労働者が死亡した日の翌日が起算点で、時効期間は5年間です。
- 葬祭料:被災労働者が死亡した日の翌日が起算点で、時効期間は2年間です。
特別遺族給付金
石綿健康被害救済制度の特別遺族給付金は、労災保険の遺族補償給付で消滅時効を経過してしまった遺族を救済する目的で設けられた制度になり、遺族補償給付のみを救済対象としています。
そのため、要件は労災保険給付と基本的に同じになるため、申請してから3ヵ月から半年ほどの期間を要することになります。それ以上の期間がかかるケースもあります。
結果通知が遅れる場合や、不認定となった場合には弁護士に相談することをお勧めします。
給付内容
特別遺族給付には、特別遺族年金と特別遺族一時金の2種類があります。これは、労災保険の遺族補償年金と遺族補償一時金に相応しています。
どちらも労災補償を受けずに死亡した労働者の遺族に対して支給されるものです。給付金額については、特別遺族年金は、遺族の人数に応じて支給される額が変わります。遺族が1人の場合は、年間240万円が支給されます。
特別遺族一時金は、1,200万円が支給されます。
請求期限
遺族の方が石綿健康被害救済制度による給付金を受け取るためには、期間内に請求を行う必要があります。2026年3月26日までに亡くなられた方の遺族が対象で、その申請は2032年3月27日まで受け付けられます。
石綿健康被害救済制度
石綿健康被害救済給付金は、アスベストによる健康被害を受けているものの、アスベストばく露作業に従事しておらず、労災保険の対象とならない人に対して支給される給付金になります。
労災保険と比べると比較的早く給付金を受け取ることができるケースもあります。ただし、すべてのケースに当てはまるわけではないため、申請してから3ヵ月〜半年程度で支給されることが一般的になります。
給付内容
給付内容は、アスベストにばく露した被害者が存命の場合には、給付金の認定がなされると医療費、療養手当が支給されます。
給付認定がされると石綿健康被害医療手帳が交付され、この手帳を医療機関に提示することで指定疾病に関する医療費は、自己負担なしになります。療養手当は、月103,870円が、2か月に1度支給されます。
注意点は、この制度では、労災保険及び後述する建設アスベスト被害給付金制度とは異なり、良性石綿胸水による疾病が対象外となります。
また、アスベストにばく露したことが原因で死亡された方の遺族に対しては、葬祭料199,000円、特別遺族弔慰金280万円が支給されます。
受給までの流れ
石綿健康被害救済給付金を申請してから、給付金を受給するまでの流れは、以下となります。
- 独立行政法人環境再生保全機構が申請書類の確認を行います。
- 独立行政法人環境再生保全機構が環境大臣に対し、医学的事項に関する判定を依頼します。
- 独立行政法人環境大臣が中央環境審議会に対し意見を求めます。中央環境審議から意見が提出されます。
- 環境大臣が独立行政法人環境再生保全機構に医学的判定結果の通知を行い、それに基づいて独立行政法人環境再生保全機構が認定等の可否を決定します。
認定がされると救済給付の支給が開始されます。
建設アスベスト被害給付金制度
この制度は、主に建設業に従事してアスベストにばく露し健康被害を負った被害者に対して、肉体的・精神的苦痛に対する慰謝料相当額の給付金を支給する制度になります。労災保険や石綿健康被害救済制度とは全く別の制度になるため、労災保険給付や石綿健康被害救済制度の給付の支給を受けている場合にも請求することが可能です。
しかし、建設アスベスト被害給付金制度は、他の制度の給付金の支給と比較すると、審査機関による審査の長期化が原因で支給が遅い傾向にあります。
建設アスベスト被害給付金制度は、2022年1月19日に始まった新しい制度ですが、審査には半年以上の月日を要しており、それ以上かかるケースも少なくありません。2025年現在は、制度ができた頃に比べると申請件数は減少していますが、それでも依然として審査に時間がかかっています。 これは、認定審査会が月に1度しか行われず、そこに200件程度の請求がくるため、審査に時間を要していることが原因といえます。
受給までの流れ
建設アスベスト被害給付金を申請してから、給付金が支払われるまでの流れは、以下となります。
- 厚生労働省本省労働基準局労災管理課に必要書類を提出し、申請手続を行います。
- 特定石綿被害建設業務労働者等認定審査会が審査を行い、厚生労働省に審査結果を通知します。
- 審査結果に基づき、厚生労働省が認定結果の通知を送付します。認定されていれば、指定口座に給付金等が振り込まれます。
建設アスベスト被害給付金制度の気を付けるべきポイント
請求期限に注意
建設アスベスト被害給付金制度の請求期限は、20年です。起算点は、対象疾病により異なります。
石綿肺
1.石綿肺にかかった旨の医師の診断日
2.石綿肺に係るじん肺管理区分の決定日
1か2のうち遅い日が起算点となります。
石綿肺以外の対象疾病にかかった旨の医師の診断日が起算点となります。
ただし、これらの対象疾病により被害者が死亡したときは、死亡日が起算点となります。
請求期限が20年もあるため、猶予があるように感じられるかもしれませんが、診断日や決定日からある程度経過している場合には、医療記録が廃棄されてしまう可能性がどんどん高まっていきますので、できるだけ早く請求の手続をとることが大切です。
給付金減額事由に該当するか注意する
建設アスベスト被害給付金の対象であったとしても、以下の減額事由に該当する場合には、給付金が減額されます。
減額事由について
- アスベストばく露業務の従事期間が一定期間未満(短い)場合
- 喫煙習慣がある場合※
※対象疾病が肺がんの場合であり、肺がん以外の対象疾病は、喫煙習慣があっても減額事由にはなりません。これは、喫煙によって肺がんの発症の可能性を高めたと判断されるためです。
アスベスト給付金申請において気を付けるべきポイント
給付金認定を受けるために気を付けるべき点について紹介します。
アスベスト給付金は、申請から受給できるまでの期間が早くても数カ月後になってしまいます。そのため、請求する側による書類の不備や不足で審査が遅れないようにすることが大切です。
書類の不備、不足により、審査担当者から修正や追完を求められて、審査期間が長引いてしまうことがないように、提出する必要のある書類がしっかりと揃っているのか慎重に確認する必要があります。
アスベストにばく露したという証拠資料の作成をしっかりと行い、質の高い請求資料を提出することで、審査担当者が認定の判断を下しやすいようにします。
アスベスト被害でお悩みの場合は弁護士法人シーライトにご相談ください
給付金をできる限り早く受給するためにも、認定判断が下されやすい書類作成が大切です。
しかし、給付申請には、提出しなければならない資料や押さえるべきポイントも多いため、被害者ご自身や遺族の方が申請を行おうとしてもスムーズに進まないこともあると思います。
アスベストに詳しい弁護士に依頼することで、書類作成の負担を軽減することができます。
また、弁護士による適切な救済制度の選択や不備のない書類の提出を行うことで、少しでも早い給付金の受給を目指します。
アスベストに詳しい弁護士法人シーライトにご相談ください。
この記事の監修弁護士

弁護士法人シーライト
副代表弁護士 小林 玲生起
神奈川県弁護士会所属。藤沢生まれ、藤沢育ち。アスベスト給付金申請の代理業務については弁護士向け教材の講師を務めるなど、詳しい知識を持つ。