「造船所で働いていました」「鉄道車両の整備や修理をやっていました」という方から、「建設アスベスト給付金の対象ではない、対象外だと言われた。もう諦めた方がいいのでしょうか」というご質問をよくいただきます。
先に結論をお伝えします。たしかに、造船や鉄道車両に関わる方は、建設アスベスト給付金の対象外とされています。ただし、対象外なのは建設アスベスト給付金だけです。労災保険・特別遺族給付金・石綿健康被害救済制度の3つは、職種を問いません。一度「対象外」と言われると、それで終わりだと思ってしまいがちですが、確認すべき制度はほかにあります。
この記事では、次の3点を解説します。
- なぜ、造船や鉄道車両で働いていた方は建設アスベスト給付金の対象外なのか
- 同じ会社でも分かれる線引き
- 職種を問わない3つの制度と、何から始めるか
造船・鉄道車両は、なぜ建設アスベスト給付金の対象外なのか|「工作物」の解釈
造船や鉄道車両の修理・製造に関わっていた方は、建設現場と似た立場で作業をしていても、建設アスベスト給付金の対象外とされています。理由は、「工作物」という法律上の概念の解釈にあります。
法律の定義|「建設業務」は、土木、建築その他工作物の建設などに係る業務
建設アスベスト給付金の根拠となる法律(建設アスベスト被害救済法)では、「建設業務」とは何かが定められています。それは、土木、建築その他「工作物」の建設などに係る業務という規定です。
厚生労働省の解釈|「工作物」は土地に接着したもの。船や鉄道は動く
この「工作物」という言葉は、通常の法律の解釈では「土地の工作物」、つまり土地に接着している人工物を指すと解釈されています。建物が典型です。そう考えると、船は海の上を動きますし、鉄道も車輪の上とはいえ動いていきます。「土地に接着していないから工作物ではない」という理屈で、建設アスベスト給付金の対象ではない、とされているのです。
同じ鉄道会社でも、線引きが分かれます
この解釈を前提にすると、同じ鉄道会社で働いていた、似たような職種の方でも線引きが分かれることになります。
| 作業の場所 | 建設アスベスト給付金 |
|---|---|
| 駅舎の配管設備・電気工事・空調設備などの作業でばく露した方(配管工・電気工事士・設備工など) | 対象になる(駅舎は土地に接着した工作物) |
| 鉄道車両の製造・修理に携わり、同じような作業でばく露した方 | 対象外 |
駅舎の配管設備をやっていた方、駅舎の電気工事を担当していた方、空調設備を担当していた設備工の方などは、駅舎という土地に接着した工作物の建設業務ですから、対象になります。一方で、鉄道車両の製造や修理でアスベストにばく露した方は対象外です。一見すると不公平・不平等な結論で、問題として指摘されています。ただ、現在の法律を厚生労働省が解釈している内容では難しい、とまずは考えていただくのがよいと思います。
この点について、当事務所の小林が著書『アスベスト給付金申請ハンドブック』(中央経済社)で、次のように書いています。
造船工や鉄道車両工場の工員などは、建物の建設作業員(大工、内装工、解体工、吹付工、配管設備工、電工、空調設備工、現場監督など)と同様の作業を行っている。全く同じ鉄道会社であっても、駅舎の配管設備・電気工事・空調設備などを行ってアスベストにばく露した者は支給対象となり、鉄道車両に対するそれらの作業でアスベストにばく露した者は支給対象外となるのは、いかにもバランスを欠く。業種によって救済に格差が生まれている現状を是正し、全ての被害者が公平に補償を受けられるよう、「建設業務」の対象を広げる法改正が望まれる。
ただし、対象外なのは建設アスベスト給付金だけです|職種を問わない3つの制度
ここで押さえていただきたい注意点があります。対象外なのは、あくまで建設アスベスト給付金だけです。労災保険・特別遺族給付金・石綿健康被害救済制度の3つは、造船や鉄道車両の方であっても対象になります。職種を限定しているのは、4つの制度のうち建設アスベスト給付金だけなのです。
| 制度 | 対象・内容 |
|---|---|
| ① 労災保険 | 仕事でばく露した労働者(特別加入者を含む)。治療費・休業補償・遺族補償年金など。4つの制度の中で最優先 |
| ② 特別遺族給付金 | 死亡から5年が過ぎ、労災の遺族補償が時効になったご遺族。2032年3月27日まで請求できる |
| ③ 石綿健康被害救済制度 | 労災が使えない方(自営業の方・工場周辺の住民の方など)。労災とはどちらか片方のみ |
①労災保険|仕事でばく露した労働者(特別加入者を含む)が対象。職種の限定はありません
労災保険は、仕事でアスベストにばく露した労働者(特別加入者を含む)に、治療費や遺族補償給付などを支給する制度です。職種を限定していませんので、造船所や鉄道車両工場で働いていた方も対象です。4つの制度の中で最優先で考える制度でもあります。制度の全体像と優先順位は、アスベスト給付金の制度は4つ|どれから申請する?優先順位と併給の可否をご覧ください。
②特別遺族給付金|労災保険に準じる制度。時効を過ぎたご遺族のためのもの
特別遺族給付金は、労災保険に準じる制度ですので、こちらも対象です。亡くなってから5年が過ぎ、労災の遺族補償給付が時効になってしまったご遺族が請求できる制度で、2032年3月27日まで請求できます。詳しくは特別遺族給付金とは?労災の時効5年を過ぎても請求できる救済制度で解説しています。
③石綿健康被害救済制度|職種の定めはなく、対象の病気と認定基準だけ。労災とはどちらか片方
石綿健康被害救済制度も、職種については何も書かれていません。対象になる病気にかかっていて、その認定基準を満たすかどうかだけが定められていますので、こちらも対象になります。ただし注意点として、労災保険と石綿健康被害救済制度は、どちらか片方しか受け取れません。
旧国鉄にお勤めだった方は、労災保険とは別の制度になります
なお、旧国鉄(日本国有鉄道)の職員としてアスベストにばく露した方は、労災保険ではなく、旧国鉄の業務災害補償制度を利用することになります。詳しくは旧国鉄職員がアスベスト被害にあったらどうすればいいの?と旧国鉄職員は「旧国鉄業務災害補償制度」以外の救済制度も申請できるのかをご覧ください。
建設アスベスト給付金の対象外となる、ばく露作業の例
建設アスベスト給付金の対象にはならないものの、アスベストにばく露した作業の例としては、次のようなものがあります。
| 業種 | ばく露作業の例 |
|---|---|
| 造船 | 艤装(船の内装)・配管・塗装・電気配線 など |
| 鉄道車両 | 車両用ブレーキ(石綿含有摩擦材)・保温材・断熱材の取扱い など |
| 自動車整備 | ブレーキパッドやクラッチの取扱い など |
最も典型的なのは造船です。船を造るときの内装を「艤装」と言いますが、艤装作業に携わっていた方、船の配管や塗装、電気配線をやっていた方が典型です。鉄道車両の修理や製造では、車両用のブレーキパッドにアスベストが使われていましたし、車両の保温材や断熱材にも使われていましたので、それらを加工した方も、ばく露している可能性があります。自動車も動くもので土地に接着しませんから建設アスベスト給付金の対象外ですが、ブレーキパッドやクラッチにアスベストがよく使われていたため、これでばく露した方がいらっしゃいます。鉄道車両でアスベストが使われていた場所は、電車にもアスベストが使われたの?でも解説しています。
何から始めるか|出発点は労災保険
労災の認定は、他の制度や損害賠償にもプラスに働きます
何から始めるのがよいかというと、労災保険の申請ができるかどうか、という観点で見ていただくのがよいと思います。労災の認定は、他の制度や損害賠償請求にもプラスに働いていきますので、まずそこができないかどうかを見ていただくことが大事です。
会社がもう無くても、年金記録などから職歴を立証できることがあります
「会社がもう無い」「廃業してしまった」「代替わりして全然分からない」という方でも、年金記録やほかの証拠から職歴を立証できることは十分にあります。詳しくは会社が倒産していてもアスベスト労災は申請できる?|職歴を立証する「年金記録」と身近な証拠と、会社が事業主証明を書いてくれない…それでも労災申請はできます|対処法を弁護士が解説をご覧ください。
こんな方は、ご相談ください
- 造船所・鉄道車両の工場・車両の整備や修理の工場などで働いていて、対象の病気(中皮腫・肺がん・石綿肺・びまん性胸膜肥厚・良性石綿胸水)と診断された方(ご遺族の方も)
- 「建設アスベスト給付金の対象外」という記事や説明を受けて、そこで止まっている方。対象外なのはその制度だけで、ほかに使える制度がないかを一緒に確認します
相談料・着手金は0円ですので、「自分の職種でも対象になる制度があるのか」を確かめるためにご利用ください(弁護士費用の詳細は弁護士費用をご確認ください)。受給可能性を手早く確かめたい方には、4タップで結果が出る無料診断もご用意しています。登録は不要です。
よくある質問
- 造船所で働いていました。建設アスベスト給付金の対象外と言われましたが、本当ですか?
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本当です。厚生労働省の解釈・運用上、造船や鉄道車両に関わる業務は「建設業務」に当たらないとして、建設アスベスト給付金の対象外とされています。ただし、対象外なのはこの制度だけです。労災保険・特別遺族給付金・石綿健康被害救済制度は職種を問いませんので、そちらを検討します。
- なぜ造船や鉄道車両は対象外なのですか?
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法律上の「建設業務」が「土木、建築その他工作物の建設などに係る業務」と定められており、この「工作物」が、土地に接着した人工物(建物など)と解釈されているためです。船や鉄道は動くもので土地に接着していないから工作物ではない、という理屈です。
- 同じ鉄道会社の駅舎の工事をしていた同僚は対象になったのに、車両の整備をしていた私は対象外なのですか?
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現在の解釈では、残念ながらそのような線引きになります。駅舎は土地に接着した工作物なので、駅舎の配管設備・電気工事・空調設備の作業でばく露した方は対象、鉄道車両への同じ作業でばく露した方は対象外です。一見不公平な結論で、問題として指摘されていますが、まずは現状の解釈を前提に、労災保険など他の制度を検討するのがよいと思います。
- 自動車の整備でブレーキを扱っていました。どの制度が使えますか?
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自動車も土地に接着しないため、建設アスベスト給付金の対象外です。ただ、ブレーキパッドやクラッチにはアスベストがよく使われていましたので、労災保険など職種を問わない制度の対象になり得ます。出発点は労災保険の申請ができるかどうかです。
- 勤めていた造船所はもうありません。それでも申請できますか?
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会社が廃業していたり、代替わりして分からなくなっていても、年金記録やほかの証拠から職歴を立証できることは十分にあります。会社が無いことを理由に諦める必要はありません。労災保険の申請ができるかどうか、という観点からご相談ください。
まとめ|対象外なのは建設アスベスト給付金だけ。出発点は労災保険
- 造船・鉄道車両・自動車整備などは、「工作物」の解釈により、建設アスベスト給付金の対象外とされている
- ただし、対象外なのは建設アスベスト給付金だけ。労災保険・特別遺族給付金・石綿健康被害救済制度は職種を問わず対象になるので、それだけで諦めない
- 出発点は、労災保険の認定を目指せるかどうか。会社がもう無くても、職歴は立証できることがある
「対象外」と言われて止まっている方こそ、諦めずに一度ご相談ください。相談料・着手金は0円です。
