アスベストで受け取れるお金は6つあります|給付金4制度と損害賠償2つの全体像・申請の順番を弁護士が解説

「労災、救済制度、建設アスベスト給付金、国への訴訟……制度が多すぎて、自分がどれを使えるのか分からない」——アスベスト(石綿)の病気と診断された方やそのご家族から、よくうかがう声です。弁護士の私自身、この分野の案件を扱い始めたころに「これは一般の方には分からないだろう」と感じました。

先に結論をお伝えします。アスベストの健康被害で受け取れるお金は、給付金4制度と損害賠償2つの、合わせて6つに整理できます。そして、申請には優先すべき順番があります。出発点は労災保険です

この記事では、次の3点を解説します。

  1. どんな制度があるか(6つの全体像)
  2. それぞれの対象者と受け取れるもの
  3. 申請の優先順位・併給のルール・期限と、進め方

制度の名前を6つ並べられても、すぐには頭に入らないと思います。まずは「6つある」「順番がある」の2点だけ押さえて、読み進めてください。

アスベストで受け取れるお金は6つ|給付金4制度と損害賠償2つ

アスベスト被害の補償は、1つの制度にまとまっているわけではなく、複数の制度に分かれています。一気に申し上げると、次の6つです。

制度・請求の名前手続きの種類ひとことで言うと
①労災保険行政(労働基準監督署)への申請仕事でばく露した労働者(特別加入者を含む)のための制度。4つの給付金制度の中で最優先
②特別遺族給付金行政(労働基準監督署)への申請労災の遺族補償給付が時効になってしまったご遺族のための制度
③石綿健康被害救済制度行政(環境再生保全機構)への申請労災保険が使えない方(自営業・工場周辺の住民の方など)のための制度
④建設アスベスト給付金行政(厚生労働省)への申請建設業務に従事した方のための給付金。裁判不要で、労災保険・救済制度と併給できる
⑤国への損害賠償(工場型・泉南型)裁判所での手続(国家賠償訴訟)一定期間にアスベスト工場で働いた方が、国に訴訟を提起して賠償金を受け取る
⑥(元)勤務先への損害賠償裁判所での手続(民事訴訟)ばく露した状況などによっては、働いていた会社に賠償を請求できる場合がある

①〜④は行政への申請で、⑤⑥は裁判所での手続などを通じた請求です。まとめると、「給付金4つ+損害賠償2つ」と覚えていただくと整理しやすいと思います。

①〜④の給付金4制度の違いと優先順位に絞った解説は、アスベスト給付金の制度は4つ|どれから申請する?優先順位と併給の可否をご覧ください。この記事では、損害賠償2つを含めた全体像を扱います。

①労災保険|4つの給付金制度の中で最優先

対象になる方

労災保険は、仕事中にどこかから転落した、物が落ちてきてケガをした、といった場合の保険としてイメージしやすいと思います。この労災保険が、アスベストの健康被害にも応用されています。

対象は、仕事でアスベストにばく露した労働者です。忘れてはいけないのは、一人親方など労働者でない方も、労災保険の特別加入をしていれば使えるという点です。

受け取れるもの

  • 治療費(自己負担なし)
  • 休業補償(平均賃金の80%)
  • 亡くなられた場合の遺族補償年金・葬祭料など

ポイント|最優先で考える制度。良性石綿胸水も対象

労災保険は、4つの給付金制度の中で、最初に優先して考える制度です。理由は後述しますが、給付が手厚いことに加え、他の制度に進むときの土台になるからです。

もう1つ注目したいのは、後で説明する石綿健康被害救済制度とは違って、良性石綿胸水も対象に含まれていることです。

なお、退職して何十年も経っていても労災の請求はできます。潜伏期間と時効の考え方は、退職して何十年経ってもアスベストの労災は請求できます|潜伏期間と時効の考え方を弁護士が解説で詳しく解説しています。

②特別遺族給付金|労災の時効を過ぎてしまったご遺族のための制度

対象になる方

特別遺族給付金は、一言で言えば「労災保険の特別バージョン」です。労災保険の遺族補償給付は、亡くなってから5年で時効にかかってしまいます。これを救済する制度が特別遺族給付金です。

アスベストの被害はかなり特殊で、ご家族がアスベスト被害にあっていて労災保険を使えたのだと分かるのが、だいぶ年月が経ってからということもあります。そのため時効にかかってしまう方がとても多く、そうした方を救うための制度です。対象は、死亡から5年が経ち、労災の遺族補償給付が時効になってしまったご遺族です。基本的には労災保険に準ずる制度と考えていただいて結構です。

受け取れるものと期限

  • 特別遺族年金(遺族1人の場合 年240万円)、または特別遺族一時金(1200万円)
  • 請求できるのは2032年3月27日まで

金額は固定で決まっています。期限を過ぎると救済されませんので、ご注意ください。制度の詳細は特別遺族給付金とは?労災の時効5年を過ぎても請求できる救済制度で解説しています。

③石綿健康被害救済制度|労災保険が使えない方の制度

対象になる方

石綿健康被害救済制度は、一言で言えば労災保険が使えない方が主な対象です。労災保険が使える方も使おうと思えば使えますが、基本的には「労災保険が使えない方向け」の制度と思っていただくとよいです。

  • 労災保険の特別加入をしていない一人親方・自営業の方(ずっと自営業だった方など)
  • 近くにアスベスト工場があり、周辺住民としてアスベストを吸って病気になった方 など

受け取れるもの

給付は定額で決まっています。

  • アスベスト関連疾患の医療費の自己負担なし
  • これとは別に、療養手当 月103,870円
  • 亡くなられた場合は特別遺族弔慰金280万円など

ポイント|労災保険とはどちらか片方

ポイントは、労災保険と石綿健康被害救済制度はどちらか片方しか使えない(併給不可)ということです。労災保険が使えそうであれば、そちらを優先するのがよいです。

④建設アスベスト給付金|裁判不要で、労災保険・救済制度と併給できる

制度のなりたち

建設アスベスト給付金の元になっているのは、建設業従事者による国に対する損害賠償訴訟です。この訴訟の最高裁判決(最判令3.5.17民集75.5.1359)が出て、それが制度化したものが建設アスベスト給付金です。

対象になる方

名前のとおり、建設業に従事した方が対象です。労災保険とは違い、一人親方や法人の役員の方なども含みます。対象期間も定まっています。

  • 1972年10月〜1975年9月の石綿吹付け作業
  • 1975年10月〜2004年9月の一定の屋内作業等の建設業務

基本的には「1972年から2004年の間」と覚えていただくとよいと思います。

受け取れるもの

病態に応じて550万〜1300万円です。金額は最大値で、喫煙習慣その他の減額事由があります。病態ごとの金額は建設アスベスト給付金とは?|対象となる職種・時期と金額(最大1300万円)を弁護士が解説をご覧ください。

ポイント|裁判不要・併給できる

裁判は不要で、慰謝料に相当するものを受け取れる制度です。そして、労災保険と建設アスベスト給付金、石綿健康被害救済制度と建設アスベスト給付金、という形で併給もできます。「忘れずに申請する」という頭で覚えておくとよいと思います。

⑤国への損害賠償(工場型・泉南型)|訴訟を経て賠償金を受け取る

制度のなりたち

5つ目は、工場型もしくは泉南型と呼ばれる、国への損害賠償の訴訟です。もともと泉南アスベスト訴訟という訴訟があり、それが最高裁判決で認められました。「こういう条件のある人は損害賠償(慰謝料)を受け取れる」と認められたものが、ある意味で制度化しているものです。

石綿(アスベスト)工場の元労働者やその遺族の方々との和解手続について

対象になる方

1958年5月26日〜1971年4月28日に、局所排気装置を設置すべきアスベスト工場内で、労働者として石綿粉じんにばく露する作業に従事した方が対象です。局所排気装置を備えるべきだったのに備えていなかった工場、ということです。

受け取り方|「裁判なら何年もかかる?」と思う方へ

この類型では、国に対して損害賠償の訴訟(国家賠償訴訟)を提起する必要があります。「裁判なら何年もかかるのでは」と思う方もいらっしゃると思いますが、この訴訟はかなり定型的に決まっています。要件を満たすことが確認されると、国が和解金を払って終わりにするということを、国自体が認めているものです。

注意点として、労災保険や石綿健康被害救済制度の給付を受けている方も、これとは別途、さらに請求できます(併給できます)。

⑥(元)勤務先への損害賠償|安全配慮義務違反に基づく請求

6つ目は、勤務先への損害賠償請求です。ほとんどの方にとっては、「元」勤務先への請求になると思います。国ではなく民間の勤務先に対して、損害賠償請求の訴訟をするものです。

これは安全配慮義務違反に基づいて請求するものです。ここまでの5つの制度とは違い、認められるか認められないかは、ある意味で裁判で決めるという形になります。通常の安全配慮義務違反の損害賠償請求訴訟と同じ形です。

ばく露した状況などによっては、働いていた会社に賠償を請求できる場合があります。ただし、請求できるか・どの程度になるかは事案により大きく異なり、給付金との支給調整もあります。かなり専門性が高いところですので、弁護士にご相談いただくのがよいと思います。

実は、申請には適切な順番があります|まず労災保険から

6つの制度を、何となく目についたところから、バラバラに申請してしまうのはおすすめできません。目に付いた制度をとりあえず申請してしまうと、後々苦労することがあります。やはり適切な順番があります。

順番制度考え方
最優先①労災保険(特別遺族給付金を含む)まず労災保険、もしくは特別遺族給付金が狙えないか、という目で見る
次善②石綿健康被害救済制度労災保険が難しそうであれば、救済制度を申請する(2つとも申請してみる形もあり得る)
併給可③建設アスベスト給付金①または②が認定されたら、建設業の方は建設アスベスト給付金を申請する

その後に、元勤務先への損害賠償請求訴訟や、建設業ではなくアスベスト工場で働いていた方であれば泉南型の国への損害賠償請求訴訟を考えていく、というイメージです。

併給のルール|受け取れる組み合わせ・受け取れない組み合わせ

「あれとこれは両方受け取れるのか」は、よくいただく質問です。まとめると次のとおりです。

組み合わせ併給内容
労災保険 × 石綿健康被害救済制度できないどちらか片方しか受け取れません。労災保険を優先的に検討します
建設アスベスト給付金 × 労災保険・救済制度できる労災保険とも救済制度とも併給できます(上乗せ)。両方忘れずに請求します
損害賠償(国・元勤務先) × 給付金支給調整あり「二重取り」はできず、二重取りになる部分を減らして支払う仕組みです。関係は相当複雑です

損害賠償については、減らされたうえでも受け取れるものがあるのかどうかを、弁護士に相談しながら進めていくのがよいと思います。

それぞれに期限があります

制度ごとに、請求できる期限が決まっています。

制度期限
労災保険時効は給付の種類ごとに2年または5年
特別遺族給付金2032年3月27日まで
石綿健康被害救済制度最も早い方で2032年3月27日(中皮腫・肺がん)/2036年7月1日(石綿肺・びまん性胸膜肥厚)

※発症・死亡の時期などにより異なります。ご自身の期限は個別にご確認ください。労災保険の時効の起算点(退職日からは数えない)については、退職後の労災請求の記事で解説しています。

出発点は、労災保険の認定です

繰り返しになりますが、進め方としては、労災保険の認定があるのが望ましいと考えています。理由は2つあります。

  1. 給付の額が手厚いこと
  2. 業務とアスベスト被害との因果関係を国が認めた、ということになるため、その後の進め方がスムーズになること

労災(特別遺族給付金)の認定は、建設アスベスト給付金や損害賠償請求の立証にもプラスに働きます。ですから、まず「労災保険を狙えないか」という目で見ていくのがよいと思います。どの制度を使えるかの判断も含め、弁護士にご相談ください。

「勤務先がもう無い」「証明できるものが何もない」という方も、年金記録などから職歴を立証できることがあります。会社が倒産していてもアスベスト労災は申請できる?|職歴を立証する「年金記録」と身近な証拠をご覧ください。

こんな方は、ご相談ください

次の2つに当てはまる方は、いずれかの制度の対象になる可能性があります。ご本人だけでなく、ご家族・ご遺族の方もご相談いただけます。

  1. 仕事や工場の近くで、アスベストにばく露した心当たりがある——工場内でアスベストを取り扱ったことがある、という方も含みます
  2. 対象の病気と診断された——中皮腫・肺がん・石綿肺・びまん性胸膜肥厚・良性石綿胸水の5つのいずれか。「その疑いがある」と言われた段階でも構いません

使える制度は、働き方・時期・病気によって決まります。「自分はどれに当てはまるのか」を確かめるところからで大丈夫です。

よくある質問

アスベストで受け取れるお金は、全部でいくつありますか?

6つです。行政に申請する給付金4制度(労災保険・特別遺族給付金・石綿健康被害救済制度・建設アスベスト給付金)と、裁判所での手続などを通じた損害賠償2つ(国への損害賠償[工場型・泉南型]・元勤務先への損害賠償)に分かれます。

どの制度から申請すればよいですか?

まず労災保険(ご遺族の場合は特別遺族給付金を含む)が使えないか、という目で見るのが出発点です。労災保険が難しそうであれば石綿健康被害救済制度、認定されたら建設業の方は建設アスベスト給付金、という順番で検討します。目に付いた制度をとりあえず申請すると、後々苦労することがあります。

労災保険と石綿健康被害救済制度は、両方受け取れますか?

両方は受け取れません。どちらか片方だけです(併給不可)。労災保険が使えそうであれば、労災保険を優先的に検討するのがよいです。

建設アスベスト給付金は、裁判をしないと受け取れませんか?

裁判は不要です。建設業従事者による国に対する損害賠償訴訟の最高裁判決を受けて制度化されたもので、行政への申請で請求できます。労災保険や石綿健康被害救済制度と併給できます。

国への損害賠償(工場型)は、裁判に何年もかかるのではありませんか?

訴訟の提起は必要ですが、この類型はかなり定型的に決まっています。要件を満たすことが確認されると、国が和解金を支払って終わりにするということを、国自体が認めているものです。労災保険や救済制度の給付を受けている方も、別途請求できます。

まとめ|受け取れるお金は6つ。まず労災保険から

  • アスベストで受け取れるお金は、給付金4つ+損害賠償2つの合わせて6つ
  • 使える制度は、働き方・時期・病気によって決まる
  • 申請の順番が重要。まず労災保険(特別遺族給付金を含む)が使えないか、という目で見る
  • 労災保険と救済制度はどちらか片方。建設アスベスト給付金は併給できる。損害賠償は支給調整がある
  • 制度ごとに期限がある。特別遺族給付金は2032年3月27日まで

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