「アスベストの病気と言われた。それだけで、労災と認められるのでしょうか」——このようなご相談をよくいただきます。
結論から申し上げると、病名がついただけでは足りません。アスベスト労災と認められるには、2つの条件を、両方満たすことが必要です。1つは「仕事」、つまり労働者として石綿ばく露作業に従事していたこと。もう1つは「病気ごとの認定基準」、つまり対象の5つの病気のどれかを発症し、病気ごとの認定基準を満たしていることです。
そして、「基準に届かない」と言われても、そこで終わりとは限りません。ぬか喜びも、早すぎる諦めも避けるために、まずは2つの条件の全体像から押さえておきましょう。
この記事では、次の3点を解説します。
- 労災と認められる2つの条件
- 5つの病気ごとの認定基準
- 「基準に届かない」と言われたときの考え方
アスベスト労災が認められる2つの条件は「仕事」と「病気」
労災認定の2つの条件は、そんなに難しいものではありません。まずは「仕事」と「病気」と覚えてください。
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| ① 仕事 | 労働者として石綿ばく露作業に従事し、それが病気の原因であること |
| ② 病気 | 対象の5つの病気のどれかを発症し、病気ごとの認定基準を満たしていること |
2つは「どちらか」ではなく「両方」です。病気の基準を満たしていても、仕事でのばく露がなければ労災にはなりません。
条件①「仕事」|労働者として、石綿ばく露作業に従事したか
1つ目は、仕事でアスベストにばく露したのか、言い換えると、労働者として石綿ばく露作業に従事したのかという点です。ここでいう「労働者」には、労災保険の特別加入者も含みます。
条件②「病気」|5つの病気と、病気ごとの認定基準
2つ目は病気です。アスベストの関連疾患として労災認定の対象となるものとして、中皮腫・石綿肺・肺がん・びまん性胸膜肥厚・良性石綿胸水の5つが決まっています。そして、それらの病気ごとに認定基準が定められていて、その基準を満たしているかどうかが問われます。
条件①|石綿ばく露作業は9つと、同程度・周辺の作業
石綿ばく露作業と呼ばれるものは、認定基準の上で9つに決まっています。分類すると、次のとおりです。
| 分類 | 主な作業 |
|---|---|
| 石綿を扱う・作る | 石綿鉱山での採掘など、石綿原料の袋詰め・運搬、石綿製品の製造 |
| 建物・設備 | 石綿の吹付け、断熱・保温の被覆、石綿製品の切断などの加工、建物などの補修・解体 |
| 船・車両ほか | 船舶・車両の補修・解体、タルク(滑石)などの取扱い |
| 同程度・周辺 | 上の作業と同程度以上のばく露や、周辺での間接的なばく露も該当 |
9つに当てはまるかは、厳密に考えすぎなくて大丈夫です
9つの作業には、石綿の吹付け、断熱や保温の被覆、石綿を含む建材の加工などが定められています。ただし、「それらと同程度以上にばく露する作業や、周辺で間接的にばく露する作業も該当する」という、包括的な条項もあります。
そのため、ご自身の仕事が9つのどれに当たるのかを、そんなに厳密に考えなくても大丈夫です。
典型的な職種|アスベスト工場・建設業・船舶
よくあるのは、アスベスト工場で働いていた方です。建設業では、大工さん・電気工事士・内装工などが典型的です。あとは船舶系で、船舶の修理や建造をしていた方もいらっしゃいます。以下にアスベストばく露をしていた典型的な職種を上げておきますので、こうした仕事をされていた方は、ぜひご相談ください。
【アスベストばく露した典型的な職種】大工(墨出し、型枠を含む。)、左官、鉄骨工(建築鉄工)、溶接工、ブロック工、軽天工、タイル工、内装工、塗装工、吹付工、はつり、解体工、配管設備工、ダクト工、空調設備工、空調設備撤去工、電工・電気保安工、保温工、エレベーター設置工、自動ドア工、畳工、ガラス工、サッシ工、建具工、清掃・ハウスクリーニング、現場監督、機械工、防災設備工、築炉工
造船・鉄道車両で働いていた方は、建設アスベスト給付金の対象になりそうでならない業種|造船・鉄道車両で働いていた方が使える3つの制度を弁護士が解説もご覧ください。
勤務先が倒産している・事業主の証明が得られないとき
「会社がもう無い」「事業主に証明を書いてもらえない」という場合の立証の方法は、会社が倒産していてもアスベスト労災は申請できる?|職歴を立証する「年金記録」と身近な証拠と、会社が事業主証明を書いてくれない…それでも労災申請はできます|対処法を弁護士が解説で解説しています。
条件②|5つの病気と、認定基準の要点
2つ目の条件は、5つの病気のどれかを発症し、その病気の認定基準を満たしていることです。要点を一覧にすると、次のとおりです。
| 病気 | 認定基準の要点 |
|---|---|
| 中皮腫 | 中皮腫の確定診断+石綿肺の所見(第1型以上)、または作業1年以上 |
| 石綿肺 | じん肺管理区分が管理4、または管理2〜4+合併症 |
| 肺がん | 6通りの基準のどれか(胸膜プラーク+作業10年以上、肺組織から一定基準以上の石綿小体・石綿繊維など) |
| びまん性胸膜肥厚 | 一定基準の肥厚の広がり+著しい呼吸機能障害+作業3年以上 |
| 良性石綿胸水 | 具体的な基準は無く、厚生労働省本省と協議して判断 |
表の「第1型以上」とは、胸部エックス線の像の区分(第0型=所見なし〜第4型)で、石綿肺の所見があることを指します。
ご覧のとおり、基準は病気ごとに違います。ここから1つずつ見ていきます。それぞれの病気の症状については、アスベスト被害についてのページもあわせてご覧ください。
中皮腫の認定基準|①か②のどちらかを満たすこと
| 基準 | 中身 |
|---|---|
| ① 画像 | 胸部エックス線写真で、第1型以上の石綿肺所見がある |
| ② 作業期間 | 石綿ばく露作業の従事期間が1年以上 |
中皮腫の基準は、①か②のどちらかを満たすことです。①は、レントゲン(胸部エックス線写真)の画像上で、第1型以上の石綿肺の所見がある中皮腫。②は、アスベストにばく露する作業の期間が1年以上あること。このどちらかを満たせば、認定の対象になります。
最初のばく露から10年未満で発症したものは除かれます
ただし、重要な注意点があります。中皮腫は基本的に、アスベストにばく露してから10年未満ではほぼ発症しないとされています。そのため、最初のばく露作業から10年未満で発症した場合は、認定の対象外になります。
病理組織検査での確定診断が重要です
さらに大事なのが診断です。中皮腫は、確定診断が非常に難しい病気とされています。確定診断をするには、病理組織検査、つまり組織を取って顕微鏡などで見て決める検査を経る必要があります。確定診断がされていないと認定されないのが原則ですので、ここは押さえておいてください。
なお、病理組織検査ができない場合には、検査結果・画像・経過などを総合して判断されます。
石綿肺の認定基準|「じん肺管理区分」で判断されます
石綿肺は、じん肺の一種です。認定では「じん肺管理区分」が1つのキーワードになります。区分は管理1〜4で、数字が大きいほど進んだ状態を表します。
管理4、または管理2〜4に合併症があること
| 基準 | 中身 |
|---|---|
| 管理4 | じん肺管理区分が管理4の石綿肺 |
| 合併症 | 管理2〜4の石綿肺に、合併症がある |
表のどちらかに当てはまれば、石綿肺の労災として認定の対象になります。合併症も決まっていて、肺結核、結核性胸膜炎、続発性気管支炎、続発性気管支拡張症、続発性気胸、肺がんが挙げられています。
じん肺管理区分の決定と、労災の審査の順番
じん肺管理区分には、「じん肺管理区分決定申請」という別の手続があります。原則としては、これを申請して労働局長がじん肺管理区分を決定した後に、それをもとに労災かどうかが判断される流れが基本です。
ただ、実情を見ると、東京労働局や神奈川労働局など比較的大きめの労働局では、区分の決定を別に経ていなくても、労災の審査の中で管理区分を決めてもらう形で進めていることが多いです。労災の審査の中で、地方じん肺診査医に諮ることも多くあります。
肺がんの認定基準|6通りのどれか1つに当てはまること
| キーワード | 基準 |
|---|---|
| 画像・石綿肺 | ① 石綿肺の所見(第1型以上) |
| 画像・胸膜プラーク | ② 胸膜プラーク+作業10年以上 |
| 画像・顕著な胸膜プラーク | ③ 顕著な胸膜プラーク+作業1年以上 |
| 検査 | ④ 肺の組織などの石綿小体・石綿繊維が一定以上+作業1年以上 |
| 別の病気 | ⑤ びまん性胸膜肥厚の併発 |
| 高濃度ばく露作業 | ⑥ 特定の3作業(石綿紡織製品・石綿セメント製品の製造、石綿の吹付け)に5年以上 |
肺がんの認定基準は、細かく言えば6つあり、そのどれか1つに当てはまることが必要です。ただ、重要なところは3つぐらいと思っていただくとよいです。
重要な3つは「画像の基準」
その重要な3つが、画像の基準です。肺がんと併せて、画像上第1型以上の石綿肺の所見が認められれば、認定の対象になります(①)。
また、胸膜プラークがあり、石綿ばく露作業歴が10年以上あれば、これも認定の対象です(②)。
さらに、作業歴が10年に届かなくても、1年以上の作業と顕著な胸膜プラークがあれば対象になります(③)。ここはかなり重要なポイントです。
検査・併発・特定の3作業による基準
画像のほかにも基準があります。肺の組織を取って特殊な検査をすると、石綿小体や石綿繊維が見つかることがあります。それが一定数以上見つかり、作業歴も1年以上あれば、労災認定の対象になります(④)。びまん性胸膜肥厚を併発している場合も、認定の対象です(⑤)。
特定の3作業とは、非常に高濃度のアスベストにばく露する作業として決められているもので、石綿の吹付けなどがこれに当たります。この作業が5年以上あれば、画像などの基準を満たさなくても認定の対象になります(⑥)。
対象は原発性の肺がん|期間の数え方にも注意
対象になるのは原発性、つまり他の部位から転移したものではない肺がんです。中皮腫と同じく、最初のばく露から10年未満の発症は除かれます。また、②の製造作業と⑥の3作業は、1996年(平成8年)以降の期間を2分の1で数えます。
喫煙歴がある方の肺がんについては、「肺がんはタバコのせい」と言われた方へ|喫煙歴があってもアスベスト給付金の対象になることがありますで詳しく解説しています。
びまん性胸膜肥厚の認定基準|3つすべてが必要です
| 基準 | 中身 |
|---|---|
| 広がり | 胸部CTで、片側のみなら側胸壁の2分の1以上、両側なら4分の1以上 |
| 呼吸機能 | 著しい呼吸機能障害がある(%肺活量が60%未満 など) |
| 作業期間 | 石綿ばく露作業の従事期間が3年以上 |
びまん性胸膜肥厚は、中皮腫のように「どちらか」ではありません。次の3つの基準をすべて満たす必要があります。
画像の基準|胸部CTでの肥厚の広がり
まずは画像の基準です。胸部CTで、胸膜の肥厚の広がりを見ます。片側(片肺)だけなら肥厚の広がりが2分の1以上、両側(両肺)なら肥厚の広がりが合わせて4分の1以上という基準です。
呼吸機能の基準|%肺活量(%VC)が60%未満など
次に、著しい呼吸機能の障害があることです。いろいろな基準がありますが、重要になるのが、スパイロメトリーによる「%肺活量」「%VC」と呼ばれるもので、これが60%未満という基準です。なお、この「著しい呼吸機能障害」は、石綿肺の管理4を認定するものと同じ基準で判定されます。
詳しくは、平成22年6月28日基発0628第6号「じん肺法における肺機能検査及び検査結果の判定等について」の別紙「肺機能検査のフローチャート」を参考にするとよいでしょう。
作業期間の基準|石綿ばく露作業が3年以上
最後に、石綿ばく露作業の期間が3年以上あることです。この3つをすべて満たすと、認定の対象になります。
良性石綿胸水には、具体的な認定基準がありません
良性石綿胸水は、別名「石綿胸膜炎」とも呼ばれ、石綿が原因で発症する胸膜の炎症です。この病気には、残念ながら具体的な認定基準がありません。
ほかの原因をすべて除外して診断する病気です
胸水や胸膜炎は、一般的な肺炎など、石綿以外の原因でもなり得ます。そのため、ほかの原因をすべて除外したうえで、何年にもわたる石綿ばく露が原因と考えられる、ということでようやく決められます。消去法で決めていく、難しい病気なのです。
労働基準監督署長が、厚生労働省本省と協議して判断します
だから認定基準がなく、だからこそ、労働基準監督署だけで判断するのではなく、厚生労働省の本省と協議して判断することになっています(平成24年3月29日基発0329第2号「石綿による疾病の認定基準について」第3-5)。
なお、良性石綿胸水は、石綿健康被害救済制度では対象外です。労災保険と建設アスベスト給付金では対象になっています。
労災保険と石綿健康被害救済制度では、認定基準が違います
簡単に申し上げると、救済制度の認定基準よりも、労災保険の認定基準のほうが有利です。肺がんに石綿肺の所見がある場合で比べてみます。
| 制度 | 肺がん+石綿肺の場合に必要なもの |
|---|---|
| 労災保険 | 原発性肺がん+石綿肺の所見(第1型以上) |
| 石綿健康被害救済制度 | 原発性肺がん+石綿肺の所見+胸膜プラーク+胸部CTでの肺の線維化所見 |
救済制度では、肺がんと石綿肺の所見があるだけでなく、胸膜プラークがあり、肺の線維化もCTで認められなければならない、というように条件が重く追加されています。これだけを見ても、労災保険の基準のほうが有利だと分かると思います。
だから、まず労災保険から検討します
先ほどの良性石綿胸水も、労災保険なら対象です。こうした理由もあって、労災保険を優先して申請することをおすすめしています。制度の優先順位はアスベスト給付金の制度は4つ|どれから申請する?優先順位と併給の可否をご覧ください。
「基準に届かない」と言われても、終わりとは限りません
お医者さんや、ほかに相談した人から「基準に届かない」と言われることがあります。そう言われても、それだけで終わりというわけではありません。考え方は3つあります。
総合的な判断で認められることがあります
基準を満たさなくても、作業の内容や期間などから、総合的な判断で認められることがあります。たとえば、非常に高濃度のアスベストにばく露する作業に長期間従事してた、同じ時期・同じ職場でアスベストの労災が認定されている人がいる、といった事情も加味されます。
認定基準に届かないからと諦めるのではなく、申請していくことが必要になる場合もあります。
ほかの病気の基準にも目を向けます
たとえば肺がんでは、胸膜プラークがかなり重要な基準になります。ただ、肺がんを発症している方には、石綿肺を併発している方も多くいらっしゃいます。胸膜プラークが見つからなくても、ほかの基準に当てはまれば認められることがあります。石綿肺の認定基準では認定されるかもしれない、という目で見ていただくことが必要です。
不支給になったら、3か月以内に審査請求
それでも申請して不支給になってしまった場合は、決定を受け取ってから3か月以内に、審査請求という不服申立てをする必要があります。審査請求で認定されることもあります。期限と進め方はアスベストの労災が不支給になったら|審査請求の期限3か月と、その前にやることを弁護士が解説で解説しています。
こんな方は、ご相談ください
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よくある質問
- アスベストの病気と診断されれば、それだけで労災と認められますか?
-
病名だけでは決まりません。労働者として石綿ばく露作業に従事し、それが病気の原因であること(仕事)と、対象の5つの病気のどれかを発症し、病気ごとの認定基準を満たしていること(病気)の2つを、両方満たす必要があります。
- 自分の仕事が、石綿ばく露作業の9つに当てはまるか分かりません。
-
同程度以上にばく露する作業や、周辺での間接的なばく露も該当するという包括的な条項があるため、厳密に考えすぎなくて大丈夫です。アスベスト工場、大工さん・電気工事士・内装工などの建設業、船舶の修理や建造などは典型的な職種です。
- じん肺管理区分の決定を受けていないと、石綿肺の労災は判断されませんか?
-
原則は、労働局長がじん肺管理区分を決定した後に、労災かどうかが判断される流れです。ただ、東京労働局や神奈川労働局など比較的大きめの労働局では、区分の決定を別に経ていなくても、労災の審査の中で管理区分を決めてもらう形で進めていることが多いです。
- 肺がんで、胸膜プラークが見つからないと言われました。
-
肺がんの基準は6通りあり、胸膜プラークはその一部です。石綿肺の所見(第1型以上)がある場合や、肺の組織から一定以上の石綿小体・石綿繊維が見つかる場合など、ほかの基準に当てはまれば認められることがあります。
- 労災保険と石綿健康被害救済制度、どちらの基準から考えればよいですか?
-
まず労災保険から検討します。肺がんに石綿肺の所見がある場合などで、労災保険のほうが基準は有利です。良性石綿胸水も、救済制度では対象外ですが、労災保険なら対象になります。
まとめ|労災の条件は2つ。基準に届かなくても道がある
- 労災の条件は2つ。労働者としての石綿ばく露作業と、病気ごとの認定基準。「仕事」と「病気」の両方を満たすことが必要
- 基準は病気ごとに違う。救済制度より労災保険の基準が有利なので、まず労災保険から
- 基準に届かなくても、総合的な判断や審査請求の道がある。いろいろな証拠を集めて、最後まで諦めずに申請していくことが大切
ご自身やご家族の病気が基準に当てはまるのか分からない方は、一度ご相談ください。相談料・着手金は0円です。
この記事の監修弁護士

弁護士法人シーライト 副代表弁護士
小林 玲生起
神奈川県弁護士会所属。藤沢生まれ、藤沢育ち。アスベスト給付金申請の代理業務については弁護士向け教材の講師を務めるなど、詳しい知識を持つ。

弁護士法人シーライト 副代表弁護士
小林 玲生起
神奈川県弁護士会所属。藤沢生まれ、藤沢育ち。アスベスト給付金申請の代理業務については弁護士向け教材の講師を務めるなど、詳しい知識を持つ。
