「アスベストを扱う工場で働いていた父が亡くなって、もう何年も経ちます。今さらアスベストの給付金を申請できるのでしょうか」——ご遺族の方から、このようなご相談をいただくことがあります。
先に結論をお伝えします。亡くなった後でも、ご遺族が請求できる制度があります。アスベスト被害の給付金は4つの制度がありますが、4つすべてに、ご遺族向けの給付が用意されています。アスベストの被害はばく露から何十年も経って発症することが多く、業務が原因と気づかないまま亡くなる方が少なくないためです。
この記事では、次の3点を解説します。
- ご遺族が使える4つの制度の全体像
- 労災保険の遺族補償(年金・一時金・葬祭料)の内容と金額
- 時効の後・労災保険が使えない場合の制度と、それぞれの請求期限
ご遺族が使える制度は4つ|どれにも遺族向けの給付があります
| 制度 | ご遺族向けの給付 | 請求期限 |
|---|---|---|
| ① 労災保険 | 遺族補償年金・遺族補償一時金・葬祭料 | 死亡の翌日から5年(葬祭料は2年) |
| ② 特別遺族給付金 | 年金(遺族1人で年240万円)または一時金1,200万円 | 2032年3月27日 |
| ③ 石綿健康被害救済制度 | 特別遺族弔慰金280万円+特別葬祭料199,000円 | 最も早くて2032年3月27日または2036年7月1日 |
| ④ 建設アスベスト給付金 | 1,200万円または1,300万円(最大額) | 死亡日から20年 |
① 労災保険|最優先で検討します
お仕事でアスベストにばく露して亡くなった場合の出発点は、労災保険です。遺族補償年金があり、年金を受け取る資格のあるご遺族がいない場合には遺族補償一時金があります。あわせて葬祭料も支給されます。4つの制度のなかで最も手厚い給付ですので、まずここから検討します。
② 特別遺族給付金|労災保険の時効を過ぎたご遺族へ
労災保険の特別バージョンといえる制度です。労災保険の遺族補償給付が時効(5年)にかかってしまった場合でも、ご遺族が救われるように用意されています。詳しくは特別遺族給付金とは?労災の時効5年を過ぎても請求できる救済制度をご覧ください。
③ 石綿健康被害救済制度|労災保険が使えない方のご遺族へ
主に想定されているのは、ずっと自営業でばく露した方や、アスベストを扱う工場の周辺に住んでいてばく露した住民の方です。労働者として働いていたわけではないため労災保険を使えない方のご遺族に、特別遺族弔慰金という給付があります。
④ 建設アスベスト給付金|ご遺族も請求できます
建設業務でアスベストにばく露して亡くなった方のご遺族向けにも、給付金が用意されています。しかもこの制度は、労災保険や救済制度と併給できます。どちらか片方だけで終わりにしないことが大切です。
労災保険の遺族補償年金|亡くなった方の収入で生活していたご家族へ
亡くなった場合に中心になる労災保険給付が、遺族補償年金です。亡くなった方の収入でご家族の生活が成り立っていた場合に、残されたご遺族の生活を保障するためにできた制度です。「お金の話をするようで気が引ける」とおっしゃる方がいらっしゃいますが、そもそもが生活保障のための制度です。
対象になるのは「生計を維持していた」ご遺族です
請求できるのは、死亡当時、亡くなった方の収入によって生計を維持していたご遺族です。配偶者(内縁を含みます)・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹という順位が決まっており、妻以外の方には年齢などの要件もあります。これ以外にも細かな要件がありますので、判断に迷う場合は弁護士にご相談ください。
なお、受給権者が複数いらっしゃる場合は代表者を選ぶ手続が必要になります。遺族補償給付の受給権者が複数いる場合には、代表者の選任が必要もあわせてご覧ください。
年金額は、給付基礎日額の153日分から245日分
年金額はご遺族の数によって変わります。ご遺族が1人なら給付基礎日額の153日分、4人以上なら245日分が、毎年支払われます。多くの場合が153日分で、これが生涯にわたって請求権者に支払われます。
給付基礎日額とは、1日あたりの賃金額のことです。アスベストの場合はばく露が数十年前であることが多いため、業種・職種に応じた平均賃金から算定されることが多くあり、1日あたり1万円程度のケースが多いです。
年金とは別に、遺族特別支給金300万円があります
年金とは別に、一時金として一律300万円(遺族特別支給金)が支払われます。このほかに、賞与(ボーナス)を基準とした遺族特別年金という給付もありますが、該当する方はそれほど多くありません。
年金の対象になるご遺族がいない場合|遺族補償一時金と葬祭料
遺族補償一時金|給付基礎日額の1,000日分
忘れてはいけないのが、年金の対象となるご遺族がいない場合にも給付があるという点です。年金には細かな要件がありますが、受給資格者がいない場合でも、以下のような順位で、給付基礎日額の1,000日分に遺族特別支給金300万円を加えた額などを受け取れます。
遺族補償一時金の順位=⑴配偶者、⑵被災労働者の死亡当時にその収入によって生計を維持(以下、単に「生計維持関係」といいます。)にあった子、⑶生計維持関係にあった父母、⑷生計維持関係にあった孫、⑸生計維持関係にあった祖父母、⑹生計維持関係にない子、⑺生計維持関係にない父母、⑻生計維持関係にない孫、⑼生計維持関係にない祖父母、⑽兄弟姉妹
遺族補償給付は、「遺族の生活保障」が趣旨となっていますので、生計維持関係のある人が順位が上になりますが、亡くなった方のご親族がいらっしゃれば、何かしら当てはまる方が多い給付です。
葬祭料|数十万円が支給されます
葬祭を行った方には葬祭料が支給されます。金額は給付基礎日額をもとに計算され、おおむね数十万円とお考えください。なお、葬祭料の時効は2年で、遺族補償給付の5年よりも短くなっています。
見落としがちな「未支給の休業補償給付」
もう1つ、忘れてはならないのが未支給の休業補償給付です。アスベストの病気を発症すると働くことができませんから、本来は生活保障のための休業補償を受け取れます。ところが、それを受け取らないまま亡くなる方が多いのです。この場合、ご遺族が引き継いで請求できます。療養が長期にわたっていた場合、数百万円になっていることもありますので、忘れずに請求してください。
なぜ労災保険を最優先に検討するのか|救済制度との比較
| 制度 | ご遺族が受け取れる額 |
|---|---|
| 労災保険 | 遺族補償年金 年200万円前後+一時金300万円+葬祭料数十万円 |
| 石綿健康被害救済制度 | 特別遺族弔慰金280万円+特別葬祭料199,000円 |
労災保険を最優先で検討するのは、4つの制度のなかで最も手厚い給付だからです。石綿健康被害救済制度と比べると違いがはっきりします。救済制度は弔慰金と葬祭料を合わせて約300万円で終わりですが、労災保険は一時金だけでその額に達します。そのうえで年金が毎年支払われます。このほかにも、時効にかかっていなければ、葬祭料や未支給の休業補償給付がもらえます。
上の金額は一例です。給付基礎日額やご遺族の数などによって変わります。また、労災保険と救済制度は、どちらか片方です。だからこそ、先に労災保険が使えないかを確かめる順番が大切になります。制度の全体像と優先順位はアスベスト給付金の制度は4つ|どれから申請する?優先順位と併給の可否で解説しています。
労災保険の時効は死亡の翌日から5年|過ぎてしまっても特別遺族給付金があります
労災保険の遺族補償給付の時効は、死亡の翌日から起算して5年です。この5年は、ぜひ覚えておいてください。
ただし、5年を過ぎてしまっても、それだけで諦めてはいけません。特別遺族給付金という制度があり、給付額は少し下がりますが、2032年3月27日までなら請求できます。年金であれば遺族1人で年240万円、一時金であれば1,200万円です。時効を理由に諦めてしまう前に、アスベスト給付金の時効もご確認ください。
石綿健康被害救済制度|労災保険が使えないご遺族の受け皿
労災保険が使えないご遺族には、石綿健康被害救済制度があります。対象者は特に限定されていませんが、主に想定されているのは、ずっと自営業でばく露した方や、アスベストを扱う工場の周辺に住んでいてばく露した住民の方です。
給付は特別遺族弔慰金280万円と特別葬祭料199,000円
亡くなった方のご遺族には、特別遺族弔慰金280万円と特別葬祭料199,000円が支給されます。合わせてほぼ300万円です。生前に医療費や療養手当を受けていた場合は、その差額になります。詳しくは石綿健康被害救済制度の遺族向け給付内容についてをご覧ください。
請求期限は、病気によって違います
請求期限は病気によって異なります。中皮腫・肺がんは最も早くて2032年3月27日、石綿肺・びまん性胸膜肥厚は最も早くて2036年7月1日です。発症や死亡の時期によって変わりますので、ご自身の期限は個別にご確認ください。
建設アスベスト給付金はご遺族も請求できます|労災保険または清家面健康被害救済制度と併給できます
金額は1,200万円または1,300万円(最大額)
金額は亡くなった方の病態によって違い、1,200万円または1,300万円が最大額として決まっています。ただしこれは最大額で、従事期間や、肺がんの場合の喫煙習慣による減額事由があります。たとえば、喫煙習慣があった方は1割減額となることがあります。
請求できるのは、最先順位のご遺族です
請求権者は、配偶者(内縁を含みます)・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹の順位で決まっています。配偶者がすでに亡くなっている場合は、子が請求できる順位の方になります。労災保険の受給権者と一致しないことがありますので、ここは分けて考えてください。
期限は死亡日から20年。労災保険と併給できます
請求期限は死亡日から20年です。そして押さえていただきたいのが、労災保険や救済制度と併給できるという点です。どちらか片方だけで終わりにせず、両方を請求してください。給付の内容は建設アスベスト給付金の遺族向けの給付内容についてで解説しています。
ご遺族が、何から始めるか|3つのステップ
① 日付を確認する|死亡日と診断名
まず、死亡日と診断名を確認してください。死亡から5年以内なら労災保険、5年を超えていれば特別遺族給付金を検討する、という分かれ道になります。
② 書類を準備する|死亡診断書・戸籍謄本・住民票
死亡診断書は、どの制度でも必要になります。確実にご用意ください。あわせて戸籍謄本・住民票も準備します。
労災保険の場合に特に役立つのが、職歴を立証するための年金の被保険者記録照会回答票です。取り方は過去の勤務先の確認方法~年金の被保険者記録照会回答票の取得~でご説明していますので、ぜひご参照ください。
③ 職歴を整理する|会社がもう無くても立証できることがあります
勤務先・時期・作業内容を整理します。労災保険や特別遺族給付金では特に必要になる情報です。
「会社がもう無い」「潰れてしまった」という場合でも、年金の記録や現場写真・社員旅行の写真などから立証できることがあります。詳しくは会社が倒産していてもアスベスト労災は申請できる?|職歴を立証する「年金記録」と身近な証拠をご覧ください。
こんな方は、ご相談ください
- ご家族が対象の病気(中皮腫・肺がん・石綿肺・びまん性胸膜肥厚・良性石綿胸水)で亡くなり、建設業・造船業・アスベストを扱う工場などで働いていた方。間質性肺炎や肺線維症という診断でも、石綿肺という認定になることがあります(「間質性肺炎」と言われたら”隠れ石綿肺”かもしれない|見逃される理由と2つのチェックポイント)
- 亡くなってから年数が経っている方・会社がもう無い方・記録が残っていない方。「こうすれば、職歴を立証できるかもしれません」というご案内ができることがあります
相談料・着手金は0円ですので、「自分の場合はどの制度になるのか」を確かめるためにご利用ください(弁護士費用の詳細は弁護士費用をご確認ください)。受給の可能性は4タップの無料診断でも確かめられます。
よくある質問
- 父が亡くなって何年も経っています。今から請求できますか?
-
労災保険の遺族補償給付は死亡の翌日から5年が時効ですが、5年を過ぎていても特別遺族給付金を2032年3月27日まで請求できます。また、石綿健康被害救済制度や建設アスベスト給付金にもそれぞれ期限があり、建設アスベスト給付金は死亡日から20年です。年数が経っているというだけで諦める必要はありません。
- 労災保険の遺族補償年金はいくらもらえますか?
-
ご遺族の数によって変わり、1人なら給付基礎日額の153日分、4人以上なら245日分が毎年支払われます。金額のイメージとしては年200万円前後です。これとは別に、遺族特別支給金として一律300万円の一時金があります。給付基礎日額(1日あたりの賃金額)によって変わりますので、実際の金額は個別の判断になります。
- 年金を受け取れる遺族がいない場合は、何も受け取れませんか?
-
遺族補償一時金があります。年金の受給資格者がいない場合でも、子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹という順位で、給付基礎日額の1,000日分に遺族特別支給金300万円を加えた額などを受け取れます。ご親族がいらっしゃれば、何かしら当てはまる方が多い給付です。
- 労災保険または石綿健康被害救済制度と建設アスベスト給付金は、両方請求できますか?
-
建設アスベスト給付金は、労災保険や石綿健康被害救済制度と併給できます。どちらか片方で終わりにせず、両方を請求してください。一方、労災保険と石綿健康被害救済制度は、どちらか片方になります。
- 亡くなった父が請求していなかった休業補償は、遺族が請求できますか?
-
未支給の休業補償給付として、ご遺族が引き継いで請求できます。療養が長期にわたっていた場合、数百万円になっていることもあります。見落とされやすい給付ですので、忘れずにご確認ください。
まとめ|出発点は労災保険。5年を過ぎても道はあります
- 4つの制度すべてに、ご遺族向けの給付がある。出発点は、労災保険が使えないかどうか
- 労災保険の遺族補償年金は最も手厚い給付。5年の時効にかかってしまった場合でも、特別遺族給付金を2032年3月27日まで請求できる
- 建設アスベスト給付金はご遺族も請求でき、労災保険・特別遺族給付金・石綿健康被害救済制度と併給できる。2つとも請求することをお忘れなく
ご家族を亡くされてから年数が経っている方も、まずは死亡日と診断名をご確認ください。判断に迷われる場合は、相談料・着手金0円でご相談いただけます。
この記事の監修弁護士

弁護士法人シーライト 副代表弁護士
小林 玲生起
神奈川県弁護士会所属。藤沢生まれ、藤沢育ち。アスベスト給付金申請の代理業務については弁護士向け教材の講師を務めるなど、詳しい知識を持つ。

弁護士法人シーライト 副代表弁護士
小林 玲生起
神奈川県弁護士会所属。藤沢生まれ、藤沢育ち。アスベスト給付金申請の代理業務については弁護士向け教材の講師を務めるなど、詳しい知識を持つ。
